グロテスク三部作とは「グロテスク」「残虐記」「I'm sorry, mama」である。
どれかだけ読むよりも、セットで順番に読んでいくとどす黒さが味わえます。
桐野夏生の想像力に脱帽!
グロテスクのあらすじとネタバレと感想
東電OL殺人事件をモチーフにしたグロテスク。
東電OL事件を簡単に言うと、東電に勤めてたエリート美人女性が売春をしていて客のネパール人に殺された。という事件だが、ネパール人はのちに無罪になった。何もかも満たされていたはずのエリートが裏の顔があったという事で当時話題になった事件。
そんなOLが通っていたエスカレート式のエリート校であり、物語に出てくるQ校である。
わたしとわたしの妹ユリコ、同じハーフのわたしはバリバリの日本人顔でパッとしないのに対してユリコはハーフのいいところだけ凝縮したような容姿で周りにももてはやされてきた。
もう一人、人生の空回りをし続けている和恵。
わたしは妹のユリコと和恵を心の中で馬鹿にしながら物語は進んでいきます。
エリート校なので、金持ちが多い中で和恵がラルフローレンの靴下を買えずに、でも周りから浮かないように靴下にマークの刺繍を施すところなどこっちも失笑してしまいます。
わたしの心の声は真っ黒であり、〇サイのサイトなんかをのぞくと出てくるようなどす黒くて意味のない罵倒である(笑)ここ見どころ!
エリート校の中ではならではのエリート校のいじめがあり、和恵は常にいじめられています。内部生(ずっとQ校系列なのか、高校から入ってきたのか)と外部性のナチュラルな差別は続きます。
ここまではすごく長い前提の上巻に書かれています。
下巻では大人になってからの三人が書かれています。
わたしの心の声「ユリコは見た目通りの馬鹿であり、男に頼って生きる生き方をした。せっかくユリコが落ちていく姿を見ようと思ってたのになあ」みたいな感じ。
しかしそんな美しさも長くは続かなかった。若いうちしか花がないと揶揄される白人のようにユリコもまた年を取って劣化していってしまう。そしてせせら笑うわたし。
ユリコは勉強をしてこなかったので、劣化した後は「立ちんぼ」をしている。
和恵は勉強して有名な会社に入って一生けん命に仕事をするも「所詮女」として見られ、男からは女に見られないむなしい毎日を送る。そんな和恵も「売春」を始めるのだった。
和恵は客に自分の履歴を語り、珍しがられることで心のバランスを取っていた。普通そんなことしないだろうと思うがそこで価値を見出すしかないような、相当なストレスが蓄積していたのだろう。
ユリコと和恵は立ちんぼの場所争いで出会い、話をするが二人とも愛を欲しがっていることには違いない。ユリコは整形に失敗したバケモノのようになり、和恵は勘違い女を突っ走って真っ青なシャドウに真っ赤な口紅で自分をきれいだと思い込んでいる。
二人は年齢と共に値崩れしていき、やがて誰でもいいから必要とされたいと願い、ユリコも和恵も安アパート同じ男に殺されてしまいます。この殺した中国人の男のこれまでも必見!というかこの中国人の殺した男のこれまでの人生も長い!
そして一番信用の置けない語り手である、わたしは・・・一番ゲスイ!!!
長編だけど、誰も心中を語ってないから読みやすい。女の言い訳を集めてるような本は疲れるけど、周りから見た他人を書いてるからドンドン進められる。
人を知りたいときは「少し離れた身近な人」に聞けば一番わかる!っていうもんね(笑)そのイメージが本当のその人のイメージなんだよね。
残虐記のあらすじとネタバレと感想
残虐記というタイトルだけど、これが一番残虐ではなかったと思う。というか若かった当時私には理解しにくい場面が沢山あった。
・・・失踪した作家が「残虐記」の原稿を残して行っていた。
実は作家は25年前に起った、誘拐と一年間の監禁事件の被害者だったという事実。
最近犯人が出所したので過去の記憶がよみがえって書き留めていると記されている。
そこには誘拐犯と被害者しか知らない、密な時間が流れているが(殺しもアリ)うまく言葉にできない10歳だったので。というお話。
精神的な残虐なんだろうけど、妄想的な部分が自分には足りてなかったのでまた今度読み直してみようと思います。
I'm sorry,mama. のあらすじとネタバレと感想
主人公アイ子はちょっと知能の足りない少女です。
ケーキの切れない非行少年たちに出てくる何かが決定的に足りてない少女です。
流されるように生き、本能のままに行き当たりばったりで人を殺し続けていきます。何かをしたいという欲望すらも生まれてこない薄い人。
アイ子は元娼婦の子供で、犯罪者たちに強姦されて生まれてきた子です。
アイ子に欲望も順序もへったくれもありません。目の前の事だけ蓋をして生きて逃げ通します。
本当の悪人なんて実は殺人や悪いことに理由などなく、こんな人なんかな・・・と思わせるほどの胸糞ぶり。
個人的にはグロテスクとI'm sorry,mama.だけでいいと思う。
(でも三部作って言われたら読みたい人)
2003年発刊だけど映画化できてないにはできない理由があるんだと思う。
I'm sorry,mama.は当時も衝撃的だったけど、全部もう一回読み直そうかな。
胸糞悪さ満点★★★★★
よく似た記事:ハピネス・ロンリネス 桐野夏生の小説のネタバレと感想